「地代が安すぎる」と感じたら読む前編|制度の構造と適正価格の考え方

「地代が安すぎる」と思ったら読む6ステップ|借地制度の歪みと、地主が描ける未来・動き方

借地権付きの土地を相続したり、長年地代を受け取り続けている地主の方で、「この金額…安すぎないか?」と違和感を覚えたことはありませんか?
月に数千円、年間でも数万円しか入らない地代。それなのに固定資産税や管理の手間は年々重くなっていく。
そんな“報われない”状態に、心のどこかでモヤモヤを感じている地主は少なくありません。

この記事では、借地に関する地代がなぜこんなに安いままなのか、どう考えれば“適正”と言えるのか、実際に交渉で変えられるのか、そして未来に向けてどんな選択肢があるのかを、6つのステップで丁寧に解説していきます。
制度の限界を嘆くのではなく、地主が自信を持って声をあげていくための「再定義」と「再出発」の道筋を、一緒に考えてみませんか?

なぜ地代はこんなにも安いのか?

まずは、現在の「地代の安さ」がなぜ全国的に広がっているのか、その背景から丁寧に整理していきましょう。いまの状況は、たまたま運が悪かったわけでも、個別の借主との関係だけが原因でもありません。もっと深い「構造的な問題」があります。

借地人を守るために生まれた法律が、地主の不利を生んでいる

地代が据え置かれたまま何十年も変わらない――。その原因の一つは、借地借家法という法律にあります。
この法律はもともと、戦前・戦後の混乱期において、生活基盤を守るために「借主を保護する」目的でつくられました。

  • 地主の一方的な契約解除や更新拒否を制限
  • 更新拒絶には「正当事由」が必要
  • 建物が存在する限り、更新が自動的に繰り返される

つまり、一度契約を結べば、借地人が建物を保有し続ける限り、地主の意志だけでは契約を終了させることができません。そして、契約内容――つまり地代――も、借主が合意しなければ基本的には変更できない構造なのです。

昭和のまま止まった金額、それでも誰も手をつけない現実

たとえば昭和40年代に結ばれた契約で、当時の土地価格に合わせて年1万円程度の地代が設定されたとしましょう。そこから50年経っても、地価も物価も大きく変わっているのに、地代だけは変わらずそのまま据え置かれている――そんな例が日本中に存在します。

これは決して珍しい話ではありません。「言い出しづらいから」「昔からの付き合いだから」と、地主側が交渉を避けてしまうことが多いからです。借主からすると、上げられる理由がなければ黙っていれば得をする。結果として、両者が“変えないまま”何十年も続けてしまうのです。

本来は“更新”なのに、“放置”されてきた契約がほとんど。
更新時に条件を見直さなければならないのに、「前と同じでいいですね」で済まされてきた――それが現実です。

交渉しづらい構造が、地主の“諦め”を呼び込んでいる

地代を上げるには、借主との合意が必要です。合意できなければ、調停や訴訟といった法的手段に進むしかありません。これは時間も費用もかかり、心理的な負担も大きい。
「そこまでするほどの額でもないか……」と諦めてしまい、結果として地代は上がらないまま据え置かれるのです。

地主側が「損している」と分かっていても、それを行動に移せない。これが、いまの借地制度の“最大の歪み”と言っていいかもしれません。

声をあげにくい構造そのものが、地代を低いまま固定化させている。
だからこそ、「損してる」と気づいた今がチャンス。まずは全体像を知ることから始めましょう。

私たちが考える「適正な地代」とは?

いま受け取っている地代が「安すぎる」と感じる理由は、多くの場合、土地の価値に対して収益があまりにも見合っていないことにあります。では、そもそも「適正な地代」とはどのように考えるべきなのでしょうか?
ここでは、使用料としての考え方を超えて、「資産の拘束」や「権利の提供」に見合った地代の考え方を、現実的な数値を交えて整理します。

地代は“使用料”ではなく、“土地の権利提供に対する対価”

借地人は、その土地の上に自己所有の建物を建てることができるという極めて強い権利を持っています。
また、多くの契約では地主の許可を得ることで以下のようなことが可能になります:

  • 建物の建替え・増築
  • 借地権の譲渡・売却
  • 第三者への転貸

つまり借地人は、単なる「土地を借りて使っている人」ではなく、その土地の価値を活用する権利の一部を保有している人とも言えます。それに対して、地主は自分の土地を使えず、ただ提供しているだけなのです。

借地人が受けているのは“利用の権利”だけではない。
売れる、貸せる、建て替えられる…それだけの強い“財産的価値”を地主は提供しているのです。

適正な地代の水準はどのくらい?「利回り」という発想で考える

不動産の収益性を考えるときに使われる指標が「利回り」です。
たとえば投資用マンションであれば、年間家賃収入が物件価格の5%前後を下回ると「利回りが悪い」とされます。
ところが借地の場合、地代は土地価格の0.5〜1.5%程度が一般的。固定資産税と相殺すると、実質的な収益は“ほぼゼロ”という例も珍しくありません。

たとえば以下のようなケースを見てみましょう:

項目内容
土地価格5,000万円
現行地代(0.5%)年25万円(月約2.1万円)
適正地代(3%想定)年150万円(月約12.5万円)

このように、利回りベースで考えると、いまの地代が本来あるべき水準の20〜30%程度にとどまっているという現実が見えてきます。

実際に「適正地代」に近づけた事例もある

では、理論としてはそうだとしても、実際に地代を上げることは可能なのでしょうか?
ここでは、地代の改定に成功した例をご紹介します。

  • 【成功例①|東京都】
     現行の地代が公租公課(固定資産税等)と同水準であったため、不動産鑑定士に依頼。調停に持ち込み、公租公課の3倍に増額することで合意。
  • 【成功例②|埼玉県・商業地】
     相続をきっかけに、長年据え置かれていた地代を見直し。不動産鑑定結果を提示して調停を行い、公租公課の4.7倍で新たな地代に合意。

地代は“下がるもの”ではなく、“見直せるもの”。
根拠と手順を踏めば、地代の適正化は不可能ではありません。

現実とのギャップを数値で可視化しよう

前のステップでは「本来あるべき地代」の考え方を紹介しました。では実際に、現在の地代がどれほど“適正価格”から乖離しているのか――数値で整理してみましょう。

実勢相場は0.5%未満が多数。利回りに換算すると驚きの低さ

地代の実勢は全国的に見てもかなり低水準です。特に昭和期の契約や更新時に改定されなかった契約では、土地価格の0.3〜0.8%というケースが非常に多く見られます。

投資物件で考えると、利回りが1%未満の不動産を誰が買うでしょうか?それが、いま多くの借地における“地主側の立場”なのです。

地代水準年間収入(5,000万円の土地想定)月額換算利回り
現状(0.5%)25万円約2.1万円0.5%
適正ライン(3%)150万円約12.5万円3.0%

5,000万円の土地に対して、年25万円。
これでは固定資産税を差し引いたら赤字になるケースもあります。
借主には活用の自由があり、譲渡・転貸も可能なのに、地主は一方的に“土地を貸しているだけ”。この差はあまりに大きすぎるのではないでしょうか。

土地の価値に見合っていない地代は、「見えない損失」です。
資産価値があるはずの土地が、実は“ただの負債”になっているかもしれません。

地代が固定資産税に届かない土地は“持ち出し状態”

たとえば、土地にかかる年間の固定資産税・都市計画税が30万円だとしましょう。
それに対して地代が年25万円なら、年間5万円の持ち出し。管理費や税理士報酬などが別にあれば、もっとマイナスになる可能性もあります。

  • 地代 年25万円(0.5%)
  • 固定資産税等 年30万円
  • 税務・管理・名義変更など実費 年5〜10万円

このような“逆ザヤ状態”が何年も続くと、「もはや土地を持っている意味がない」と感じてしまっても無理はありません。

自分の土地はどうなのか?簡単な試算方法

まずはご自身の借地が、いまどれだけの利回りになっているかを把握してみましょう。

  • ① 土地の現在価格(公示価格 or 路線価など)を把握
  • ② 年間の地代収入を確認
  • ③ 「年間地代 ÷ 土地価格 × 100」で利回りを算出

利回りが1%を下回っていたら危険信号です。
あなたの土地は“活かされている”のではなく、“貸したまま取り残されている”状態かもしれません。

「安すぎるかも?」と感じたら、それは思い込みではなく“正当な疑問”です。
地代の再評価は、地主としての“立場の見直し”でもあります。

ここまでで「地代が不相当に安い構造」は整理できたはず。
でも、それを「どう変えていけるのか?」が気になる方は、ぜひ後編もご覧ください。

▶ 後編はこちら|地代を見直す現実的な方法と、地主が描ける未来

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