※この記事は後編です。
前編では、地代が安すぎる理由、制度的な背景、そして本来あるべき価格水準について解説しました。
本記事では、実際に見直すための成功事例・失敗例、地主が描ける未来、そして私たちにできる行動までを掘り下げていきます。
地代を上げることは現実的に可能なのか?
ここまで、「地代が安すぎる構造」と「本来あるべき価格帯」について確認してきました。
では、実際に地代を上げることはできるのでしょうか?現実的なハードルと向き合いながら、成功事例・失敗事例・判例をもとに可能性を見ていきます。
地代の増額は、法的にも認められた「請求権」
借地借家法第11条では、地代が経済的に不相当になった場合、地主は地代の増額請求をすることができると定められています。
その「不相当さ」を裏付ける要素には、以下のようなものがあります:
- 公租公課(固定資産税など)の増減
- 土地の価格変動
- 近隣の借地との比較
- 地代と土地評価額との利回り乖離
つまり「なんとなく上げたい」ではなく、合理的な“根拠”があれば請求できる。
しかも、それは法律でも認められた正当な地主の権利です。
【成功事例①】不動産鑑定を武器に、調停で3倍の増額に成功(東京)
地代が年間15万円、公租公課とほぼ同水準だったある都内の事例。地主が不動産鑑定士に依頼し、地価利回りベースでの「適正地代」を提示。
調停で交渉を重ねた結果、公租公課の3倍の地代で合意に至ったケースです。
【成功事例②】相続を機に4.7倍の見直しに成功(埼玉県)
地方の商業地における借地で、地代が長年据え置かれていたケース。
相続をきっかけに地代見直しを試み、不動産鑑定書を添えて調停を申立て。最終的に現行の4.7倍という合意に至った実例があります。
増額交渉は「筋立て」と「根拠資料」が命。
感情や主観ではなく、客観的データと段取りで交渉すれば実現可能です。
【失敗例①】過去の関係悪化が響き、交渉が決裂
ある地主が過去に一方的に更新料を請求した経緯があり、それが尾を引いて借地人との信頼関係が悪化。
増額交渉を持ちかけたものの、借地人が「一切応じない」と態度を硬化させ、最終的に調停も不成立となった事例。
学び:交渉の前提として、最低限の関係性・信頼感が必要です。
【失敗例②】証拠不足で裁判に敗訴。請求は認められず
「近所より安いから」と主観的な説明だけで増額を求めた結果、裁判所は「不相当さの立証が足りない」と判断し、請求を棄却。鑑定書や税務証明も準備していなかったことが敗因でした。
資料を揃えること=地主の“正当性”を可視化する行為。
見た目では伝わらない合理性を、文書で裏付けることが鍵です。
判例でも明示される“地代の見直し可能性”
裁判所も、「地代が経済的に不相当であれば見直しは可能」とする判例を数多く出しています。たとえば以下のようなポイントが判決で重視されます:
- 借地期間中に土地価格や税額が大幅に変動しているか
- 近隣と比較して著しく不利・不当であるか
- 地主が納税等による実損を受けているか
- 地主の交渉姿勢が誠実か
こうした事実を整然と整理できれば、相場を超えて増額が認められることもあるのです。
実際に地代を上げるためのステップ
- 契約書を見直す(地代据置年数、更新歴、特約)
- 土地の評価額と現行地代の利回りを算出
- 不動産鑑定書や公租公課証明書を準備
- 内容証明で増額請求を行う(証拠化)
- 合意が得られなければ調停→裁判へ
交渉は「勝ち負け」ではない。
地主も借地人も納得できる“合理的な根拠”があれば、前向きな話し合いが可能になります。
もし地代が適正になったら、どんな未来が見える?
これまで、「地代がなぜ安いのか」「適正水準とは何か」「増額が可能かどうか」を段階的に見てきました。
では、もし実際に地代が本来の水準に見直され、地主としての収益が改善されたとしたら……その先にはどんな未来があるのでしょうか?
ここでは、ただ“収入が増える”というだけではない、地主としての新しい選択肢と展望を描いていきます。
月数万円の地代アップが、“人生の余白”を生む
たとえば、土地価格5,000万円に対して地代を「0.5% → 3%」へ見直したとすると、収入は次のように変わります:
地代水準 | 年間地代 | 月額換算 | 差額(月) |
---|---|---|---|
現状(0.5%) | 25万円 | 約2.1万円 | – |
適正化(3%) | 150万円 | 約12.5万円 | +10.4万円 |
この10万円の月収アップは、年金の上乗せ、子の教育費、老後の医療費、外注での管理業務軽減などに使えるレベルです。
「土地は資産」と言われても、現金が入らなければ意味がない。
適正な地代は、「資産を使う力」を地主に取り戻します。
「守る土地」から「活かす土地」へ。選べる未来が増える
今までは、「維持するしかない」「解消も売却もできない」という選択肢のなさが地主の悩みでした。
しかし、地代が適正になれば――それは土地を「保持する力」を手に入れるということでもあります。
- 収益化により、税金や管理コストをまかなえる
- 資産としての価値が明確になり、相続・譲渡の判断がしやすくなる
- 借地権者との共同プロジェクト(建替え・売却)も前向きに検討できる
「地主が弱い立場だから何もできない」のではなく、声を上げて権利を再確認すれば、選べる未来が確かに存在します。
“夢を持てる土地”へ──収益は単なる数字ではない
地代の適正化で得られる収入は、単なる金額ではありません。
それは、「自分の土地を自分で活かしている」という実感であり、安心・自由・誇りのベースになるものです。
- 家族の未来を支える安心
- 自分で選び、考え、動ける自由
- 不動産オーナーとしての社会的信用や自負
“地主としての未来”は、収入だけでなく「選択肢」と「納得感」にかかっている。
そしてそれは、地代の見直しから始まるのです。
交渉ではなく、“声をあげる”ことから始めよう
ここまで読み進めていただいた方は、きっと「うちの地代も見直せるのでは?」という気持ちが芽生えてきているはずです。
でも実際には、「借主との関係が壊れそうで怖い」「何から始めればいいのか分からない」──そんな不安もついてくることでしょう。
だからこそ、いま必要なのは、“交渉”をゴールにするのではなく、“見直しの声”を上げることから始めることです。
一人ひとりの地主が孤立せずに声を上げ、情報と経験を共有し、制度を「見直されるべきもの」として再評価していく。その流れを一緒につくっていきませんか?
まずは自分の土地の“棚卸し”から始めよう
- 契約内容を確認:最後に地代を改定したのはいつ?更新履歴は?
- 利回りを試算:土地価格に対して何%の収益になっている?
- 固定資産税と比較:実質赤字になっていないか?
こうした“現状把握”こそが、すべての第一歩です。相場と比べ、資料を揃えれば、「交渉しなくても、正当性を持って見直しを語れる状態」が整っていきます。
つながろう、話そう、共有しよう──地主が孤立しない場づくり
借地の悩みは、個別に抱え込まれがちです。だからこそ、地主同士で情報や工夫を共有する場が必要です。
地代の水準、交渉の工夫、鑑定の取り方、調停の流れ──そうした経験値が共有されれば、あなた一人が不安を抱え込む必要はありません。
地主が“声をあげる”ことは、借主を攻撃することではありません。
制度の見直しを促し、土地と向き合う姿勢を取り戻すための“社会的対話”です。
一緒に「地代を再定義する社会」をつくっていこう
私たちは、いまこそ「地代とは何か?」を社会全体で問い直すタイミングだと考えています。
もはや、「地主だけが負担し、借主だけが守られる」時代ではありません。
- 地代が適正になれば、地主も借主も将来設計が立てやすくなる
- 土地の活用が進めば、地域経済にも還元される
- 適正な利回りが認められれば、若い世代も土地を引き継ぎやすくなる
そのために必要なのは、“交渉”ではなく、“連帯”です。
地主としての思いを共有し、制度を見直す声を上げていく。そこから、きっと変わっていけるはずです。
「地主として、胸を張って土地と向き合える社会」を。
その一歩を、私たちと一緒に踏み出してみませんか?
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