少額訴訟で地代は回収できる?地主が知っておきたい簡易裁判の進め方

少額訴訟で地代は回収できる?地主が知っておきたい簡易裁判の進め方

「何度言っても支払ってくれない地代、もう少額訴訟しかないのでは…」
そんなふうに悩む地主の方にとって、“簡易に、そして自分でできる”裁判手続きとして知られるのが「少額訴訟」です。

ただし、現実には「勝てば回収できる」とは限らず、制度の特徴と限界をしっかり理解して使う必要があります。
また、相手が拒否すれば通常訴訟に移行するという、見落とされがちなリスクもあるため注意が必要です。

この記事では、地代の滞納に対し少額訴訟を検討する地主の方向けに、使える条件・準備・手続き・そして回収可能性までを現実的な視点で解説していきます。

この記事でわかること
・地代に対して少額訴訟が使える条件と進め方
・通常訴訟へ移行するリスクと回避のコツ
・勝訴しても“取れない”場合の回収リスク

少額訴訟とは?どんなときに使える制度か

対象となる金額や条件

少額訴訟は、60万円以下の金銭請求に限って使える簡易裁判制度で、1回の審理で判決が出るのが最大の特徴です。
弁護士に依頼せずとも、地主本人が契約書や催促記録などの証拠を揃えて申し立てることで、比較的負担の少ない形で裁判が進行します。

たとえば以下のようなケースは、制度の利用が検討できます:

  • 3ヶ月分の地代が未納(合計10万円)
  • 何度か催促したが反応がない
  • 契約書があり、振込予定日も明記されている

こうした場合には、裁判所が地主の話と証拠をもとに、その場で判決を出すという手続きが期待できます。

地代の請求に向いている理由

地代は「いつ」「いくら」「何に対するものか」が比較的明確なため、請求内容の整理がしやすく、証拠が揃いやすいのが特徴です。

また、請求額が小さいことが多いため、弁護士費用が訴訟額を上回ってしまうといった事態も避けたいところ。
その点、本人で申し立てられる少額訴訟はコスト面でもメリットが大きいと言えます。

通常訴訟への移行リスクに注意

意外と知られていませんが、少額訴訟は“相手の同意があってはじめて成立する裁判形式”です。
つまり、借地人側が「少額訴訟では対応できない」と主張した時点で、通常訴訟に移行してしまうリスクがあります。

通常訴訟になると:

  • 複数回の期日が設定される
  • 主張・立証がより厳密に求められる
  • 地主側にも継続的な対応負担がかかる

そのため、少額訴訟を検討する場合は、「相手がどう出るか」もあらかじめ想定しておく必要があります。
「拒否されれば通常訴訟に切り替わる」という前提で、費用や期間のシミュレーションも視野に入れておくことが重要です。

実際の手続きと裁判までの流れ

裁判所での申し立て方法

少額訴訟は、借地人の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。
必要書類を揃えれば、本人での手続きが可能で、裁判所の窓口でのサポートも受けられます。

申立に必要な主な書類は:

  • 訴状(簡易裁判所のフォーマットあり)
  • 契約書や請求書などの証拠類の写し
  • 地代の未納額を示す明細書
  • 郵便切手代(数千円)+印紙代(請求額に応じて)

裁判所によっては、無料の法律相談窓口や手続き説明会が開催されており、「はじめてでも安心して進められる」仕組みが整えられています。

準備しておくべき証拠類

少額訴訟では、「いつ、いくら、何に対して請求しているか」を客観的に示す証拠が鍵となります。
主に以下のようなものを事前に整理しておきましょう。

  • 借地契約書(または賃貸借合意の記録)
  • 振込予定日・金額の記載がある文書
  • これまでの催告記録(内容証明、メール、LINE等)
  • 地代の未納期間・合計額をまとめた一覧

また、できれば「滞納が継続的であること」や「催促に対して反応がないこと」も補足できると、訴訟上有利になります。

当日の流れと判決後の対応

少額訴訟の審理は、原則1回のみ。裁判所に出廷し、地主本人が証拠と共に請求内容を説明します。

相手が出廷しなかった場合は欠席判決(請求通り認容)になる可能性もあります。
出廷した場合でも、地主側の証拠がしっかりしていれば、その場で判決が出ます。

判決が出ても支払われない場合は、「債務名義」に基づいて差押えの手続きへ進むことが可能です。
差押対象は:

  • 給与(勤務先が分かれば)
  • 預金口座(支店・口座情報が必要)
  • 家財・不動産(実行にはハードルあり)

ただし、実際に取れるかどうかは借地人の資力次第。差押えが可能でも、「差し押さえるものがない」という結論になることもあるのが現実です。

本当にやるべきか?判断のための現実チェック

「いざとなったら裁判で…」と思っていても、実際に申し立てるとなると迷いが生じるものです。
少額訴訟はたしかに手軽に使える制度ではありますが、すべてのケースで“正解”とは限りません。

少額訴訟のメリット:個人でも使いやすく、話し合いのきっかけにも

  • 本人申立OKで費用が安い(印紙・郵券代のみで数千円)
  • 原則1回の審理で完了するため、時間的な負担が少ない
  • 契約書や催促記録が揃っていれば地主に有利な判決が出やすい
  • 訴訟準備の過程で相手が支払いに応じるケースも多い(プレッシャー効果)
  • 「法的対応も考えている」という意思表示の手段としても有効

実際、少額訴訟の申し立てをした途端に、分割での支払いに応じてきたという例も多く、話し合いのきっかけとして活用される側面もあります。

少額訴訟のデメリット:制度の限界と対立の激化リスクも

  • 相手が拒否すれば通常訴訟に移行し、手続きが長期化・複雑化する
  • 勝訴しても相手に資力がなければ回収できない(差押えが空振りに)
  • 対立を深めてしまい、関係修復が難しくなる可能性もある
  • 裁判そのものが精神的な負担になる(特に高齢の地主など)
  • 裁判記録が残ることで、将来的な交渉や更新にも影響する場合がある

たとえば、少額訴訟を申し立てた結果、借地人側が「信用されていない」と感じて態度を硬化させたという例もあります。

迷ったら専門家や相談窓口に聞くのが近道

「自分のケースではどこまでやるべきか?」と迷ったときは、事前に第三者の意見を聞いてみるのが一番です。

  • 簡易裁判所の相談窓口
  • 法テラス(無料法律相談)
  • 地域の行政書士・司法書士

たとえ裁判まで進まなくても、証拠や交渉の整理ができていれば“見せるだけで十分な圧力”になることもあります。

「やる」か「やらない」かを決める前に、選択肢として持っておくことで、地主自身の気持ちに余裕が生まれる。それもまた、大切なメリットのひとつです。

まとめ|少額訴訟は“切り札”になるが、使い方がカギ

地代滞納に悩む地主にとって、少額訴訟は負担の少ない現実的な一手です。
自力で申し立てができ、証拠が整っていればその場で判決が出るというスピード感と手軽さは他の制度にはない魅力があります。

一方で、通常訴訟への移行リスクや、対立の激化、資力のない相手に対する空振りなど、現実的なデメリットも見逃せません。

「とにかく裁判だ」ではなく、“選択肢のひとつとして検討できる”だけでも、地主の不安は大きく和らぐはずです。

裁判を視野に入れている方へ
「どこまで踏み込むべきか」「書き方はこれでいいか」など、事前に相談できる窓口も多数あります。
まずは、あなたのケースが“やるべき状況かどうか”を一緒に確認してみませんか?

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