親の土地に家を建てた人が相続放棄するとどうなる?親族間“無償使用”の落とし穴
「土地は親のものだけど、家は自分で建てたから大丈夫」
そう思って暮らしていた家に、相続のタイミングで“想定外”のトラブルが起きるケースがあります。
とくに「相続放棄」を考えざるを得ない状況になると、家だけが取り残され、土地を使い続けられないリスクが発生するのです。
この記事では、親族間でよくある“無償使用”の形と、相続放棄の影響がどう及ぶかを整理して解説します。
親の土地に家を建てた。よくある“無償使用”の状態とは?
土地と建物の名義が異なる場合、法律上の扱いはどうなるか
親名義の土地に、子が家を建てて住んでいる――という状況は珍しくありません。
このとき、
- 土地:親名義(登記あり)
- 建物:子名義(または未登記)
という状態で、正式な借地契約がないまま何年も住み続けていることが多く、法的には「使用貸借」(=無償貸与)とみなされるのが一般的です。
使用貸借とみなされる“無償使用”の考え方
使用貸借とは、「ただで使わせてあげる契約」のことで、借地権とは異なり、更新や対価(地代)がありません。
そのため、
- 地代が発生していない
- 書面による契約がない
- 「親だから当然」という前提で使っている
という場合、法的に地位が弱い=保護されにくいと判断されがちです。
その状態で親が亡くなったときに起きること
親が亡くなった瞬間、土地は遺産として相続の対象になります。
相続をするならまだしも、相続放棄をすると、土地を“所有する権利”も“使う権利”も失うことになります。
すると、
- 建物は自分のものでも、土地が“他人のもの”になる
- 土地を使い続けるには、新たに許可や契約が必要
- 最悪の場合、立ち退きや建物の処分が求められる
次は相続放棄後に土地がどうなるのか/家にどう影響するのかを具体的に解説します。
相続放棄で土地を手放したら、家にはどう影響する?
土地の帰属先は?放棄すると“国”か“他の相続人”へ
相続放棄をすると、最初から相続人でなかったことになるため、土地の権利は他の相続人に移るか、相続人全員が放棄した場合は最終的に国庫に帰属します。
つまり、土地に関する決定権は完全に自分の手を離れることになります。
そして新たな所有者(兄弟姉妹・親戚・国など)が、「この土地をどう扱うか」を判断する立場になります。
家は自分のものでも、土地の許可なしでは使えない
土地を放棄しても、「建物の所有者=使用できる権利者」ではない点に注意が必要です。
たとえば:
- 家は自分の名義でも、土地の使用には所有者の承諾が必要
- 無断使用と判断されれば、立ち退きや契約要求をされる可能性がある
- 新所有者から「地代を払ってほしい」「建物を処分して」と言われることも
「家があるから安心」ではなく、土地との関係が整理されていないと住み続けられないリスクがあるのです。
登記がない・契約がない状態で争いが起きやすくなる
親族内で話し合いがまとまっていたとしても、登記や書面契約がなければ「第三者に対抗できない」のが原則です。
たとえば:
- 兄弟姉妹の一人が「土地は売る」と言い出す
- 親戚が「他にも相続人がいる」と主張してくる
など、想定していなかった人物からの介入や、登記に基づいた処分で、家の存続が脅かされることもあります。
次はこうしたリスクを避けるために、相続放棄の前に確認すべきことと、取るべき対応策を整理していきます。
相続放棄の前に考えておきたい3つの備えと選択肢
相続放棄=一律に悪ではない|まず状況を整理
相続放棄は、借金やトラブルを避けるための大切な手段でもあります。
とはいえ、土地に家を建てているようなケースでは、慎重な判断が必要です。
放棄によって何を失うか、どこまで影響が及ぶかを見極めたうえで、代替案を検討する余地があるかを整理しましょう。
家を守りたいなら取るべき手段
相続放棄を避けられない場合でも、家を守るための方法はいくつか存在します:
- 使用貸借契約を文書で残す:相続人との間で明文化しておく
- 代償分割による土地取得:他の相続人に金銭を支払い土地を取得
- 家庭裁判所への相談:未成年相続人がいる場合など特別代理人の選任も視野に
家に価値がある/居住継続が前提なら、土地の帰属を整理しておくことがカギになります。
専門家に相談すべきタイミングと相続のシミュレーション
以下のような状況に該当する場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします:
- 相続人が複数いて関係性が複雑
- 登記がされていない建物に住んでいる
- 土地を手放す予定だが家を残したい
税理士・司法書士・弁護士・行政書士など、相談先は目的に応じて選ぶことがポイントです。
まとめ:「親の土地だから大丈夫」は通用しない時代へ
家族の信頼関係だけで成り立っていた住まいが、相続をきっかけに法律の枠に引き戻される。
とくに相続放棄を検討するようなケースでは、「家は残っているのに、土地を使えない」という矛盾に直面するリスクがあります。
大切なのは、「放棄する/しない」という二択ではなく、家をどう守り、誰がどう引き継ぐかという視点を持つこと。
そのためにも、事前に確認し、必要なら書類を整え、相談できる先を確保しておく。
それが、住まいと家族の未来を守る一歩になります。
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